富裕層のキホン 2018.09.10 Author立本 正樹

日本の富裕層の歴史

江戸時代の商人が富裕層の起源、戦前は財閥関係者に富が集中

企業の創業者一族が新興の超富裕層・富裕層を形成

少子高齢化の影響で、女性一人しか子どもがいないケースも増えてきた

江戸時代には商人家に富が集中、現在の富裕層の起源ともいえる層が誕生しました。戦前は財閥関係者、戦後は成功した企業創業者が超富裕層・富裕層の仲間入りを果たします。そして近年、女性の富裕層が増え、新たな富裕層マーケティングの対象として立ち上がりました。女性は勉強熱心で資産防衛の意識も高く、女性富裕層のニーズに応じたマーケティングが求められています。

 

江戸時代の商人が富裕層の起源、戦前は財閥関係者に富が集中

 

富裕層にとって最大の課題は最小の損失で、確実に財産を次世代に継承することです。何も対策を打たなければ、代を重ねるごとに資産は確実に減っていきます。税金だけを見ても、ここ数年、所得税・相続税の最高税率の引き上げ、相続税の基礎控除の引き下げ、国外財産調書制度の創設、所得税・給与所得控除の上限設定など富裕層への課税強化策が次々に実行されました。

 

資産を減らさないようにするには、どうすればよいか、富裕層は常に頭を悩ませています。

 

政治・経済体制の激変も資産喪失につながります。1930年(昭和5年)の「全国多額納税者一覧」を見ると、上位10人の所得額は次のようになっていました。

 

順位 名前 所得額
1 三井高棟 76万3,000円
2 岩崎久弥 62万1,000円
3 岩崎小弥太 41万4,000円
4 三井高堅 37万1,000円
5 三井元之助 36万8,000円
6 三井高精 金額不明
7 三井高修 金額不明
8 三井寿太郎 金額不明
9 大倉喜七郎 金額不明
10 岩崎彦弥太 金額不明

 

三井、三菱(岩崎家)、大倉と財閥の当主一族が並んでいます。三井総本家(三井高棟の家)は100人の召使いを抱え、車庫には自家用車10台が並んでおり、栄耀栄華を誇っていました。

 

ところが、戦後の財閥解体で生活は一変します。生計費にワクがはめられた上、財産税で資産の90%がとられ、全財産の95%を占めていた株式は株価低迷期に公売されたり、財産税として物納されたりしました。国家によって資産が没収され、大半の資産が雲散霧消したのです。超富裕層・富裕層は、そうした国家リスクにも備える必要があります。

 

岩崎家、大倉家は明治期の新興財閥ですが、三井は戦国時代に商人となり、江戸時代には江戸随一の呉服店、越後屋(三越の前身)を経営していました。名古屋の伊藤次郎左衛門家(松坂屋の創業家)なども同様で、江戸時代からの歴史を持つ商家が超富裕層・富裕層の最古層といえます。地方の財閥・商家は戦後の財閥解体も免れ、現在もなお経営の第一線に立っている当主も少なくありません。

 

企業の創業者一族が新興の超富裕層・富裕層を形成

 

戦後、財閥関係者に代わって企業の創業者一族が高額納税者となりました。1960年(昭和35年)度の高額納税者上位10人は次の通りでした。

 

順位 名前 会社名 所得額
1 石橋正二郎 ブリヂストンタイヤ社長 3億896万円
2 松下幸之助 松下電器産業社長 3億548万円
3 住友吉左衛門友成 元住友本社社長 1億7,749万円
4 鈴木常司 ポーラ化粧品本舗社長 1億6,404万円
5 井植歳男 三洋電機社長 1億4,365万円
6 山岡康人 ヤンマーディーゼル副社長 1億4,362万円
7 般若松平 般若鉄工所社長 1億2,815万円
8 竹中錬一 竹中工務店社長 1億2,701万円
9 吉田忠雄 吉田工業社長 1億2,558万円
10 出光佐三 出光興産社長 1億2,269万円

 

松下幸之助、石橋正二郎ら高度経済成長を支えた経営者が多く名前を連ねています。企業創業者が新興の超富裕層・富裕層を形成したわけです。この流れは現在も続いており、孫正義ソフトバンク社長や柳井正ファーストリテイリング会長兼社長、三木谷浩史楽天会長兼社長ら成功したベンチャー企業経営者が超富裕層・富裕層の仲間入りを果たしました。

 

なお「高額納税者公示制度」は1947年に導入されましたが、「高額所得番付」として、面白おかしく取り上げられたり、プライバシー保護の面から問題点を指摘されたりしたため、2005年に廃止されました。

 

少子高齢化の影響で、女性一人しか子どもがいないケースも増えてきた

 

今や、お金持ちになるには何か事業を成功させるか、資産を相続するかしかありません。かつては大企業に勤めて役員・管理職になり、定年を迎えれば1億円以上の資産を保有することも難しくありませんでした。「社員持ち株会」などを利用すれば、1億円を上回る金融資産を形成できる可能性もありました。しかし、現在では定年まで働いたとしても、金融資産1億円は、とうてい不可能な数字です。

 

今後、不動産オーナー属性の富裕層の一つの傾向として、女性が増えていくことが予想されます。かつては長男(跡継ぎ・惣領息子)が資産の大半を相続していましたが、現在は子どもが2人いれば2人で分け合います。少子高齢化の影響で、女性一人しか子どもがいないケースも増えてきました。50~60代で資産を相続した女性は、就業していなければ、その資産で生きていくしかありません。資産を減らさず、お金を生む仕組みを構築したいと切実に考えています。勉強熱心で行動力もあり、母親と娘の2人で資産防衛のセミナーに参加する方も少なくありません。

 

これまでは、女性は数が少ないこともあって従来の富裕層マーケティングの対象ではありませんでした。しかし今後、急速に増加する女性の富裕層を対象にした、新たな富裕層マーケティングが求められています。

LECTURER PROFILE
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立本 正樹

幻冬舎ゴールドオンライン編集長
幻冬舎総合財産コンサルティング運営「カメハメハ倶楽部」主宰

金融専門出版社にて銀行員向け月刊誌の編集長、FP向け月刊誌の編集長を経て、2012年より幻冬舎総合財産コンサルティング勤務。2013年、富裕層向け会員組織「カメハメハ倶楽部」を立ち上げ、年間200回を超える富裕層向けセミナーの企画・運営を現在も統括。2015年、富裕層向けWEBメディア「幻冬舎ゴールドオンライン」を立ち上げ、編集長を兼任。

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